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「MSCB地獄」からの生還

 大阪証券取引所二部に上場する軽貨物運輸のトラステックスホールディングス――。4月に社名を変更するまでは「軽貨急配」という名前だったこの会社の株価は、過去1年で20分の1以下に下落した。株価暴落の主因は、転換価格修正条項付新株予約権付社債(MSCB)の乱発だ。常習性のあるMSCBに深く手を染めた同社が、その「死に至る病」から立ち直る軌跡を書きとどめておくことは、決して無駄ではない。
 同社は佐川急便の営業マンだった西原克敏会長(60)が20年前に大阪で創業。全国で個人を中心に事業主を募り、軽トラックを販売して運送業務を委託する独特のビジネスモデルが当たり、急成長してきた。だがここ数年は事業主らのトラック購入代金の延滞が急増。多額の貸倒引当金を積み、2004年3月期以降、累計150億円超の特別損失を計上した。
 特損計上に伴う資本不足を補うため、西原会長が目をつけたのがMSCBだった。「法的に問題があるわけではなく、オーナーの自分が保有株の価格下落を犠牲にして資金を調達する。何が悪いのかという感覚だった」。国内外の証券会社がこぞって名乗りを上げ、引き受け手探しには困らなかった。好条件を示したリーマン・ブラザーズ証券などに対し計5回、総額150億円のMSCB(うち1回は優先株)を発行した。
 西原会長が「誤算だった」と振り返るのは、リーマンが株価急落にも容赦せず、引き受けたCBを次々と普通株に転換し市場で売却していったことだ。01年に2850円(調整前)の高値を付けたこともある株価は今年3月、ついに10円を割った。気付けば発行済み株式数はかつての約6倍に膨張。たまらず4月に10株を1株に併合し、名目株価を引き上げた。
 「いいかげんMSCBとは手を切ろう」。そう判断した経営陣が取引銀行を仲介役にし、「健全な資本の出し手」を探し始めたのが昨年の秋ごろだ。そして経営陣が新たなパートナーに選んだのが、仏クレディ・アグリコル系の投資ファンドであるCLSAキャピタル・パートナーズだった。
 CLSAキャピタルは先月末、約51億円の第三者割当増資を引き受けると発表。増資の結果、CLSAは68%の株式を握る同社の筆頭株主となり、軽貨急配は今後、投資ファンドの傘下で経営再建を進めることになった。
 注目すべきは支援先として名乗りを上げたのがCLSAだけではなかった点。実はある米企業買収ファンド大手が経営陣とともにTOB(株式公開買い付け)を実施し、同社の全株を取得する計画を提示してきていた。MBOによる株式非公開化だ。
 だが西原会長はあくまで上場維持にこだわった。「わずかのプレミアムで全株をTOBで吸い上げれば、迷惑をかけた株主に顔向けができない」と考えたからだ。「本業の軽貨物ビジネスは増資で新規資金を投じれば、成長余地が大きい。全株取得にはこだわらない」(斎藤正継マネジングディレクター)と主張したCLSAが結局、資金規模や知名度で勝るこの米買収ファンドに競り勝った。
 CLSAは増資資金の半分以上を投じ、業績の足を引っ張ってきた子会社4社のリストラを手掛ける。本業の軽貨物輸送に特化し、3年後には過去最高益の更新を見込む。MBOとの違いは、株価が回復した場合にファンドだけでなく少数株主もその恩恵を享受できる点だ。
 昨年のレックスホールディングスの1件を機に広がったMBO批判は、突き詰めればファンドによる少数株主の排除方法の不透明さに行き着く。その意味で、今回の軽貨急配の増資はMSCBに手を染めた「限界企業」の珍しい復活事例というだけでなく、MBOに対する大きな「アンチテーゼ」にもなるだろう。
 西原会長と息子の賢社長は6月の株主総会でそろって会社から去るという。「手塩にかけて育て上げた会社から離れるのは寂しくないのか?」と聞くと、西原会長は「最後にようやくやるべきことができた。未練はない」と屈託なく笑った。資本市場のどん詰まりの底辺で、確かに一筋の光を見た。

2007/05/25, 01:00, 日経速報ニュース
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