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なぜリーマンは破綻したのか (1)ファルドCEO、プライドの高さ「壁」に

 9月9日の午後、室内にはぴりぴりとした空気が流れていた。場所はリーマン・ブラザーズ・ホールディングス本社ビルの31階、リチャード・ファルドCEO(最高経営責任者、当時)の執務室。その日の朝、韓国産業銀行(KDB)が同社との買収交渉から撤退したとのニュースが報じられた。これをきっかけに、既に大きく値を落としていたリーマン株に売りが殺到。午後1時の段階で株価は寄り付きから43%下落した。
 自身がアフリカで撮影したライオンの写真を飾った執務室で、ファルド氏は矢継ぎ早に指示を出した。6月に昇格したばかりのマクデード社長やルーソー副会長、ロウィット最高財務責任者(CFO)も朝から忙しく出入りしていた。その日の状況を知る関係者によれば、ファルド氏は遅すぎる動きやあいまいな答えに怒りをあらわにしながら、事態の展開の不当さを憤った。「またしても、勝手な市場の見方が現実を踏みにじった」。
 62歳という年齢にもかかわらず、威圧的な外見と怒りっぽい性格で部下からも恐れられていたファルド氏らしい反応だった。かつてウォール街で一番の投資銀行になることを願った会社が荒波に押し流されようとするなか、老船長は問い続けた。リーマンがどれほどの不良資産を処分してきたか、リーマンの事業がどれほど優良であるのか、なぜ空売り筋には分からないのだろうと。
 ひとつだけファルド氏が現実に根ざして理解していたことがある。「われわれは迅速に行動してきた。だから金融の津波に呑み込まれることはない」。
 しかしそのわずか6日後、リーマン・ブラザーズは破産法の適用を申請した。アラバマで綿花取引会社として創業してから158年目のことだった。ポールソン米財務長官は、3月にはJPモルガン・チェースによるベアー・スターンズの買収に290億ドルの資金支援を行ったが、リーマン救済には公的資金をつぎ込むつもりはないと表明していた。バーナンキFRB議長も政府ができることはないと主張した。リーマンが破綻すれば金融市場のハルマゲドンが起こると、ファルド氏が警告していたにもかかわらずだ。

早期身売り決断できず、同業者が食い物に
 過去3度の危機を乗り越えたファルド氏が、最終的にリーマンを守りきれなかったのは、レバレッジとそれがもたらす力に酔った結果だった。抑制と透明性を失った金融モデルの軌道修正ができなかった。信奉者たちに囲まれ、孤立を深めた同氏は、同業者らがリーマンを食い物にしていることに気づかなかった。また高すぎるプライドが、自身が築き上げた帝国の崩壊という現実の認識と早期の身売り決断を妨げた。
 破綻に先立つ数カ月、リーマンは生き残りの手段を模索し続けた。米投資会社バークシャー・ハサウェイのバフェット会長に助けを求めたにもかかわらず、同氏からの申し出を拒絶したり、3つの大陸の銀行幹部と会談したり、不良債権化した資産を切り離すという苦肉の策をひねり出したりと助かる道を必死に探した。しかし最終的に残された道は、政府当局者に懇願することしかなかった。
 そして迎えた9月14日。この日曜日の朝、週末にかけてニューヨーク連邦銀行で行われた会議の末、リーマン救済策がまとまった。事情に詳しい複数の関係者が明らかにしたところによれば、政府は銀行団に、550-600億ドル相当のリーマンの不良資産を引き受ける新会社を支援するよう説得したという。そして、英銀バークレイズが、不良資産を切り離したリーマンを買収することで合意した。
 しかし同日昼近くになって、英金融サービス機構(FSA)がバークレイズによるリーマン買収を承認しないと決定。米当局も同案実現のために何らかの措置を取ることはなかった。そして翌15日の午前2時ごろ、リーマンは破産法適用を申請した。
 「ウォール街は、いくらかの血を流せば危機が収束するかのような印象を与え、当局はその話に乗った」と、ニューヨークのマンハッタン大学教授で「ウォールストリートの歴史」の著者、チャールズ・ガイスト氏は話す。「当局は1社だけを見せしめのために破綻させることにし、リーマンがたまたまその候補だった」。
 リーマンが破産申請した日、ダウ工業株30種平均は1日で504ポイント下落。全世界で金融機関の借り入れコストが上昇し、マネー・マーケット・ファンド(MMF)から資金が流出した。これを受けてポールソン長官とバーナンキ議長は方針を転換。世界最大の保険会社、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に850億ドルの緊急融資を行うことで合意した。その後、米金融機関に2500億ドルの公的資金を注入することが決まり、破綻という究極の犠牲を払うのはリーマンだけとなった。
 リーマンの破綻がハルマゲドンをもたらすという予言が当たり、それを未然に防げなかった金融当局が間違っていたことが明らかになっても、ファルド氏にとって慰めにはならない。彼の名声はずたずたに傷つけられてしまった。今では3人の弁護士から、会社の財務状況について投資家に虚偽の報告をしたのではないかと追及されている。彼の憤りは手に取るようにわかる。
 10月には米下院監視・政府改革委員会が開かれ、ファルド氏が参考人として招致された。着ていたスーツの色はダークブルー。心のなかを映し出していたのだろうか。そこである議員から、なぜAIGが救済されてリーマンは救済されなかったと思うかと質問されると、ファルド氏はマイクに顔を近づけ、みけんにしわを寄せながらゆっくりと答えた。「墓場に入る日まで、考え続けるでしょう」。

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記事:Bloomberg
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